2月25日(土)に開催されたトークイベント、「DESIGNERS IN REAL WORLD それぞれの現実と未来」に行ってまいりました。
[blogcard url=”http://siaf.jp/event/design-symposium”]
札幌国際芸術祭デザインプロジェクト連携プログラムとして開催されました。
首都圏と比べ、仕事もコミュニティも少ないように思える地方でなぜデザイナーとして活動しているのか?という少し重たいテーマですが、北海道にデザイン系の専門学校や大学はあれど、卒業後に人材が流出してしまっているのも事実。
そんな中、地方で働き続けることのメリットをゲストの皆さんが語ってくださいました。
会場のMEET.はめっちゃオシャンティーですた。
立見席も出るほど、大盛況のトークイベントでした。
ゲストは下記の皆さん。
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【ゲスト】
原田祐馬(UMA / design farm、アートディレクター/デザイナー)
梶原加奈子(KAJIHARA DESIGN STUDIO、ディレクター/テキスタイルデザイナー)
桑原崇/児玉結衣子(mangekyo、インテリアデザイナー)
青山剛士/青山吏枝(drop around、デザイナーユニット)
上田亮(COMMUNE、クリエイティブディレクター/デザイナー)
【ファシリテーター】
山中緑(HOKKAIDO MIRAI LAB.、代表理事/コミュニケーションデザイナー)
【オブザーバー】
佐藤直樹(Asyl、アートディレクター/多摩美術大学教授)
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ゲストの方々が順に、これまでの仕事についてや仕事観をご紹介した後に、全体でトークセッションをするという流れ。
どの方のお話も非常に興味深い内容でしたので、自分の感想を中心にレポートします。
”そもそも”をつくる
原田祐馬さん(UMA / design farm)
まずはUMA / design farmの原田祐馬さんのお話。COMMUNEの上田亮さんが「原田さんは非常に深い思考で物事を組み立てる」と仰っていたように、原田さんのお仕事からは、「見た目を整えるだけ」と思われがちなグラフィックデザイナーへのイメージを一変させる力を感じました。
[blogcard url=”http://umamu.jp/”]
関西の文化や福祉、地域に携わる仕事を多く紹介していただいたのですが、「いつの間にか企画の方もやっていてー」「商品そのものの在り方から一緒に考えさせていただいて―」などなど、”そもそも”という非常に根本的な所からクライアントさんと一緒に見直している姿が印象的でした。
事例として挙げていた「みたらしだんご」。リニューアルにあたり、「関西のお団子なのになぜ鰹節なのかと。ここは昆布出汁やん!」と提案し、”そもそも”商品の練り直しから一緒にやっちゃう。
[blogcard url=”http://umamu.jp/mitarashidango.html”]
あるいは淡路島で行った「島の土BBQ」というプロジェクト。肥料を作る養鶏さんや油製造業者さん、実際に肥料を使う農家さん、その野菜を食べる消費者の方々。このメンバーでバーベキューを行い、島の自然の循環と土壌について再認識するプロジェクトとのことです。堆肥を売るのにパッケージのデザインをするだけではなく、「”そもそも”食べるって何だっけ?」「私たちは何を食べているんだっけ?」というところから考えさせる。
[blogcard url=”http://umamu.jp/shimanotsuchibbq.html”]
他に紹介していただいた事例もすべて興味深く、原田さんのスタンスは「自分の仕事を自分で作る」よりも一歩深く、「自分たちの文化や地域を自分で作ることを仕事にしている」なのでは?と考えさせられました。
デザインが生きる道を作る
梶原加奈子さん(KAJIHARA DESIGN STUDIO)
続いてはKAJIHARA DESIGN STUDIOを主宰する、テキスタイルデザイナーの梶原加奈子さん。個人的にとても聞きごたえがあって、一気にファンになってしまいました。
[blogcard url=”http://www.kajihara-design.com/”]
梶原さんは日本各地域の伝統的な生地の産地に足を運び、時代を見越したデザインで世界に日本の技術と価値を売っていくお仕事をされています。留学先のRoyal College of Art(RCA)で、企業とタッグを組み、グアテマラの繊維産業をテキスタイルデザインから発展させる仕事に出会い、「人の生活、進む道、経済を作るデザイン」の重要性に気付き、「デザインとは人の生活をクリエイトすること」だと思うに至ったとのことです。
日本の繊維産業にとって、現代は非常に厳しい時代と言えます。技術力が高く品質が良い。しかし、価格が高く、デザインがされていなく、ファッションの時代性を見越したモノづくりがされていない。それによって、世界の市場から日本の生地が取り残されている状況。そこで「何とかしたい!」と立ち上がったのが梶原さんです。
例えばこのKANAコレクション。
他国に真似できない技術力を売るべく、梶原さんのデザインで有名メゾンに生地を販売しています。アルマーニ、ヴィトン、ランバンなどのトップブランドに日本の地方の生地が取り入れられられたのも、「デザインが産地と市場をつないだ」からと言えるでしょう。
[blogcard url=”http://www.kajihara-design.com/works/kana_collection/index.html”]
企業の方や職人さんに「なぜ、デザインが大切なのか」をわかってもらうのは容易ではないと言います。「見た目をカッコよくすることに何の意味があるのか」「いけすかない」という声が、なんだか私にも聞こえてきそうです。その問いに答えるとすれば、「デザインは問題解決の手段であるから」ということなのでしょう。素晴らしい技術を世界に広めるため、後継者を育てるため、事業として成り立たせるため、そのすべてにデザインの力が関わっています。
「カッコいいものを作ることへの窮屈さ」を感じて渡英した時の気持ち、「デザインの力で経済を回せば生きていける人がいる」と学んだグアテマラでの仕事、それらのひとつひとつの経験が、梶原さんが日本のモノづくりを支援している現在に繋がっている。そんなことを感じさせてくれたお話でした。
自分に噓をつかない仕事
青山剛士さん、青山吏枝さん(drop around)
続いては、drop aroundを主宰する青山剛士さん、青山吏枝さんです。
お仕事はグラフィックデザインに留まらず、領収書や付箋などのオリジナル商品の開発や、実店舗の運営など多岐にわたります。
[blogcard url=”http://www.droparound.com/”]
震災を機に「自分たちの衣食住に見えないプロセスが多い」ことに違和感が膨らみ、札幌へ移住後、「生活の中で”見える化”できることを増やす」が仕事や人生のテーマになっているとのことでした。
「『自分に正直に生きる』ことは難しいけど、『自分の中の違和感を大事にする』は実践した方がいい」という言葉を、最近個人的によく聞きます。drop aroundさんのお話を聞いてその言葉をふと思い返したのでした。
クライアントワークだけではなく、自社開発の商品やプロジェクトも多いdrop aroundさん。代表作とも言えるのがこちらの伝票類。
[blogcard url=”http://store.droparound.com/?mode=cate&cbid=684078&csid=1”]
使いにくい領収書などに我慢ならないなら、自分で作る。自分の違和感を、価値観を信じる。自分に嘘をつかないモノづくりをする。発信する側としてのその誠実さが、長く愛されるデザインを生む肝になるのだなと、勉強になりました。
個人的に勉強になったのは、「おこめやま応援金プロジェクト」での取り組み。
[blogcard url=”http://www.okome-yamazaki.com/project/”]
震災でデザインの無力さに落ち込んだりもしたけれど、マスは救えなくても惚れ込んだ個人を救うために動くことはできると実感したdrop aroundさん。鬼怒川の増水で被害を受けたお米農家さんを支援するため、クラウドファンディングを立ち上げています。
仕事でクラウドファンディングについて勉強する機会があったので、こちらのプロジェクトのご紹介は非常に学びが多かったです。
すでに確立されているクラウドファンディングのプラットフォームには乗らず、農家さんたちとdrop aroundさんで運営していること。お礼の品が「お米の可能性を感じられるモノ」「食べるという行為を見つめ直させてくれるモノ」であること。行き届いたウェブデザイン…
「お米農家さんを救いたい」という嘘のない想いがまっすぐに伝わる、これぞブランディングだよなぁ、というお仕事を拝見させていただきました。
価値観の手綱を握り直す
桑原崇さんと児玉結衣子さん(mangekyo)
インテリアデザインのユニットであるmangekyoの桑原崇さんと児玉結衣子さん。
[blogcard url=”http://mangekyo.net/”]
会場であるMEET.やご自身のギャラリー兼店舗でもあるBLAKISTONに何度か足を運んだことがあるのですが、ホントどこから写真を撮ってもキマるんですよね。どの角度から見ても絵になる。そんなお二人がこれまで手掛けてこられたお仕事もどれも素敵で、隙のない世界観を空間として作り上げる丁寧なお仕事に感服でございました。
商業空間のインテリアデザインをお仕事の中心としていたお二人が、「自分の仕事や暮らしを見つめ直したい」と始めたのがBLAKISTONです。
[blogcard url=”http://www.blakiston.net/”]
自らがセレクトした日用品、オリジナル家具の製作などを販売し、ワークショップやイベント、展覧会も開催できるギャラリーも兼ね備えた空間です。
「クライアントワークだけではなくて、自分で開く場所が欲しくなるんですよね」とは、ファシリテーターの山中緑さんのお言葉。そう、ゲストの皆さんの仕事を見ていく中で私もそれはちょっと感じていて。
そういう、自分のこだわりを形にすることや、自分の価値観の隅々まで血を行き渡す作業が、これからお二人がデザイナーとして生きていくうえで必要だったんだろうなーと思いました。帯を締め直す感じ。新しく始めたBLAKISTONという場所での試みは「自分の価値観の手綱を握り直す」作業に近かかったのかもしれません。
自分なりの”社会貢献”を明確に
上田亮さん(COMMUNE)、手前はファシリテーターの山中緑さん(HOKKAIDO MIRAI LAB.)
最後はCOMMUNEの上田亮さん。
[blogcard url=”http://www.commune-inc.jp/”]
楽天ゴールデンイーグルスの年間シートや、RITARU COFEEなどのブランディングの事例を紹介してくださり、「見た目を変えるには中身を知ること」が重要で、「誰かの未来をよりよくすること」を念頭に置いているとのお話がありました。
そして上田さんもこのシンポジウムの会場であるMEET.というスペースを運営しております。
[blogcard url=”https://www.meetmeetmeet.net/”]
この場所は「何かと何かの接着剤」という機能を持たせたいということで、クライアントワークだけではなく、お客様との関係性から一緒に作り上げていったり、自分の企画にお客様を巻き込んだり。そういう場所にしたいという想いがあってオープンさせたそうです。
上田さんの手掛けたお仕事を見ていく中で、何かこう、当たり前のことを言うようですが、デザイナーという仕事は本当に利他的な生業なんだなと思いました。
先ほどからゲストの皆さんのお話を聞く中で感じている、「自分の価値観を見つめ直す」という言葉の正体も、「私はどんな社会貢献がやりたいのか?」「自分はデザインでどう社会貢献ができるのか?」という問いと深く繋がっているのかもしれません。今回の登壇者の皆さんは、自分が発信する立場となって、場所を作り、つながりを作り、仕事を作っていく中で、その問いを醸成させている人達です。
この後のトークセッションにも通ずるお話を伺えたのではないかと思います。
トークイベント
続いてはトークセッション。
魅力的なお話がたくさんあったのですが、「地方でデザイナーとして生きていくことについて」という話題が面白かったので、ゲストの皆さんの意見を載せてみます。
drop aroundさんは震災を契機に、「デザインで衣食住の何かを自給したい」という想いが沸き上がりました。ただ、完全に自給することは無理だと実感した後も、「顔の見える関係性で安全なものを作れたり、インパクトのあるプロジェクトが創れる」し、「業界の目を意識したオシャレなものを作るよりも、泥臭くモノづくりをした方がずっとかっこいい」と思ったそうです。そうやって自分の活動を発信していくのに、札幌のコンパクトさ(良い箱屋さんや印刷会社さんがあり、同業者同士の距離が近い)はちょうどいいと感じた、とのことでした。
mangekyoさんは東京に対するコンプレックスを解消するために東京に進出したものの、実際に行ってみるとその複雑な思いは無くなってしまったそうです。
メディアを通してみる東京は非常に先鋭的で、日本の最先端を行っているように見受けられます。ただ、いざ行ってみるとメディアに取り上げられていない東京の姿、魅力的な人、空間、モノに出会え、いい意味で「土地へのこだわり」がなくなってしまったとのこと。
原田さんも東京へ進出することにこだわりがなく、大阪で仕事をしていても純粋に大阪の仕事は少ないとのこと。DESIGN EASTを主催した際も、国内で関東だ関西だと分けているけども、世界から見てしまえば関係なく、日本は日本。大阪から国際水準のデザインを発信していく志があったのだそうです。
上田さんからも、世界中からインターンを受け入れる身として、「海外からは『日本のデザイン』という大きなくくりで見られているので、その地方性は実はあまり関係がないのかも」と実感しているというお話がありました。確かに私も、外国の中の地域性は実はあまり気にしていなかったりします。だからこそ、北海道から直接海外へ打って出ていくことに違和感はないわけです。もしかしたら、「地方だから」と引け目に感じる必要なんかないのかもしれません。
梶原さんは、「自分の生きてきた環境は、自身のデザインに反映される」と言います。世界を相手に自分たちの商品をプレゼンする際にも、自身のアイデンティティを掘り下げていく作業が必要で、何に影響を受けてきたかが作品を形作るとのこと。そう考えると、札幌の環境、食、風土などが自分に非常に良い影響を与えていたとお話ししておりました。
また、北海道から道外の産地に入っていく際にも、地域同士の軋轢とは関係ない存在だと扱われるため、コミュニケーションが比較的取りやすいのだそう。そして、純粋に北海道にはないその産地の特徴を楽しめて感動でき、作品に落とし込むことができるとのことです。他の地域に先入観を持たない/持てないというのも、実は道産子の大きな強みなのかもしれないと再認識できました。
まとめ
最後にまとめとして、自分の感想を置いていきます。
先ほどから何度も書いている通り、デザインとは問題解決の手段。つまり、デザイナーとして生きていくには、社会の課題に対してどう向き合っているのか、その問いに自分なりのアンサーを出し続けていくということそのものです。特に今回のゲストの皆さんは、クライアントワークだけではなく自ら発信する活動が多く、「そもそも」「価値観」「問題解決」などのキーワードが多かったなと思います。
そのうえで、今回のトークイベントのタイトル「地域の未来」を考えた時に、札幌でデザイナーとして生きていく意味は何なのか。
生産者との距離が近く、根本的な問題解決から一緒に取り組んでいける。
クライアントワークだけではなく発信する側に回った際に、仕事がやりやすい場所である
地方から世界へ直接発信できる時代である。
などなど、参加者それぞれの中に何らかのヒントを見つけられたイベントだったなと思います。
これから始まる札幌国際芸術祭2017においても、デザイン業界の方とどんどん手をつないで面白いもの見せてほしい!という気持ちでいっぱいです。そしてその中にサイエンスやミュージアムも突進していってほしいなと。そのためあらば私も精進していきたいなという想いを再確認しました。
関係者の皆さん、お疲れ様でございました!